絶滅危惧“食材”「しおかつお」。
“美味しい”で文化を繋ぎたい

はんばた市場に商品を提供してくださる、生産者さんや加工屋さんをご紹介する連載記事です。
vol.4は西伊豆町のみに残る、しおかつおを製造・販売されている「カネサ鰹節商店(かねさかつおぶししょうてん)」さんをご紹介します。


「しおかつお」。この食材を知っている方は、日本人でも0.1パーセント。いえ、0.01パーセントにも満たないかもしれません。
奈良時代には税金として各地で生産されていた“カツオの乾干し塩蔵品”で、カツオ節の原型とも言われますが、現在では全国でも静岡県・西伊豆町の3社が作るのみとなりました。

しおかつおの断面。旨味・塩味が凝縮している。

カツオ節の原型というと、出汁や香りを楽しむものと思われそうですが、実は全くの別物。身は半生で、強い旨味と塩味が特徴。カツオ節よりも、生ハムの原木を想像していただいた方が近いです。

食べ方も、カツオ節のように削って出汁をとるのではなく、“身”自体を楽しみます。
例えば薄く切って、お酒のあてに。日本酒ならそのまま、ワインなど洋酒にはオリーブオイルを垂らしたり、柑橘のフルーツをあわせたり。サラダやパスタにアクセントとして加えるのもおすすめです。

心身の疲労が回復する、しおかつおのお茶漬け

西伊豆町で古くから親しまれている食べ方は、お茶漬け。1cmほどの厚みに切った身を焼いて粗めにほぐしたら、熱々の白飯にのせて、お茶や出汁を注ぎます。お好みでネギ、海苔、ごまなどの薬味をプラス。しおかつおは少量でも、香り・旨味・塩味がしっかり出ます。

地元の稲わらでお飾りを作り、神様へお供えする

もともと西伊豆町ではカツオ漁が盛んで、お正月に豊漁・豊作・子孫繁栄・航海の安全など様々な願いを込めて、お飾りをつけたしおかつおを神棚にお供えしていました。そうして3ヶ日を過ぎた後に“神様からの頂き物”として神棚からおろし、正月に疲れた胃を休ませるために、お茶漬けなどで親しんでいたのです。
優しいのにくっきりした味わいが美味で、疲れた時や二日酔いのときにも箸が進みます。

しおかつおうどんは、よくかき混ぜて食べるのがコツ

最近では、しおかつおを生産する3社のひとつ「カネサ鰹節商店」の5代目、芹沢安久(せりざわやすひさ)さんらが現代風のレシピ開発に力を入れています。その代表作として人気なのが、「しおかつおうどん」。

茹でたてのうどんに、しおかつおの焼き身、ごま、海苔、鰹節、刻みねぎ、温玉などをのせ、出し醤油を軽く垂らしていただきます。濃厚な旨味・風味を卵が包みこみ、くせになる美味しさです。
町内の複数飲食店でも採用されており、町外から食べに訪れるファンもいらっしゃいます。

水分が残らないよう、しっかりと塩をカツオに擦り込む

他にはなかなか無い独特な食材「しおかつお」。先日、東京都内のシェフや料理研究家の方々が集まるイベントにお送りしたところ、想像以上の高評価をいただきました。しかも和食だけでなく、イタリアンや中華をはじめ、いろいろなジャンルのプロたちが面白がってくださったのです。

世界各国の塩蔵食材と通ずるところがあるそうで、「あの国の料理に使ってはどうか」「あの食材、あの調味料に合わせると、旨味・香りが相乗効果で高まるのではないか」と、楽しい議論が交わされました。

カツオと人に感謝を込めて「ありがつお」が合言葉

しかし繰り返しになりますが、しおかつおは日本全国でも3社しか製造する事業者が残っておらず、絶滅危惧“食材”とも呼ばれています。ニッチではあるものの根強いファンがおり、食のプロたちにも見直されつつある、しおかつお。最後の製造地となった西伊豆町は、この文化・歴史を途絶えさせないよう、後世へ繋げていく責任があると考えています。

140年もの間、しおかつおを作り続けているカネサ鰹節商店の芹沢さんも、熱い思いを語ってくださいました。


ーーカツオは日本人にとってシンボリックなもの。鰹節はもちろん、その原型といわれる「しおかつお」を守っていくことは、非常に価値があると思っています。
現在はしおかつおという存在そのものを知らない方がほとんどになってしまいました。どんなものか、どんな歴史があるのか、どんな料理で食べられるのかなどを伝えて、しおかつお自体はもちろん、この文化を守ってきた西伊豆という地域も、広く知っていただきたいです。

体験会でしおかつおについてお話しする芹沢さん

芹沢さんは現在までに、仲間たちと「しおかつお研究会」を立ち上げてレシピ開発やPRを行ったり、観光客が気軽に参加できる「しおかつおづくり体験会」を実施したりと、様々な方法で普及に努めていらっしゃいます。

町外の方にも親しんでいただけるよう、小分け包装やお茶漬けセット、調味料といった加工品も地元の事業者さんと開発されています。
もちろんこうした商品は、はんばた市場でも取り扱っておりますので、お越しの際にはぜひ手に取ってみてください。

しおかつおの商品の一部。ご家庭でも使いやすい工夫がたくさん。

私たちがこの文化を伝えていくために、みなさまにお願いしたいことは1つだけ。「美味しいので、ぜひ食べてみてください!」。
少し小難しい話もしてしまいましたが、しおかつおを持続可能にするために必要なのは、シンプルに「食べたいという需要」を作り続けること。だから、美味しさを知っていただく=まずは食べていただくことが重要なのです。

はんばた市場などでのおみやげ販売はもちろん、西伊豆町内にはしおかつおを食べられる飲食店がいくつもあります。
少しでも関心を持っていただけたら、ぜひ足を運んでみてください。西伊豆町の、そして日本の大切な文化のひとつ「しおかつお」を“美味しい”の力で、共に未来へ繋いでいただけたら嬉しいです。

カネサ鰹節商店
住所:410-3515 静岡県賀茂郡西伊豆町田子600-1
電話:0558-53-0016
HP:https://katsubushi.com/

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